誰か見舞いに来
「考えるのは後にしてくださいね。血圧が上がっちゃいますから」
彼女は手際よく検温と血圧測定を行った。金森《かねもり》と書かれたネームプレートを胸につけている。登紀子《と き こ 》という名前だということは隆正が教えてくれた。少し年上だがデートに誘ってみたらどうだといわれたのだ。もちろん松宮にはそんな気はない。彼女にもないだろう。
「どこか痛むところはありますか」
測定を終えたところで彼女は隆正に訊いた。
「いや、ないよ。すべていつも通りだ」
「じゃあ、もし何かあったらすぐに呼んでくださいね」金森登紀子は笑顔で出ていった。
それを見送った後、隆正は早速また将棋盤に視線を戻した。
「この手で来たか。考えなくもなかったが、ちょっと意外だったな」
この分ならば、たしかに退屈することはなさそうだった。松宮は少し安心し、椅子から腰を浮かせた。
「じゃあ、俺もそろそろ行くよ」
「うん、克子によろしくな」
松宮が部屋を出ようとドアを開けた時、「修平」と隆正が声をかけてきた。
「何?」
「……本当にもう、無理して来なくていいからな。おまえには、やらなきゃいけないことがほかにたくさんあるはずだ」
「だから、無理なんかしてないって」
また来るよ、といい残して松宮は部屋を後にした。
エレベータに向かう途中、ナースステーションに寄ってみた。金森登紀子の姿が見えたので、手招きして呼んでみた。何でしょう、という顔で彼女は近づいてきた。
「伯父のところに、最近ましたか。うちの母以外に、という意味ですけど」